森林を守る

害獣の原因と主な対策、害獣の特徴

動物に木を食べられる被害、食害とは?食害予防の種類と対策

森林・生態系被害の1つである木の食害について、被害を与える動物や食害を予防する方法、その種類や効果についてご紹介します。

森林被害と食害とは?

森林被害とは、野生動物の活動によって森林の樹木や植生が被害を受けるもので、植生の乱れは森の中の生態系バランス崩壊を引き起こすことから「森林・生態系被害」と呼ぶこともあります。

食害とは、森林・生態系被害の中でも動物の食べる行動によって起こる被害のことを指します。日本政府の機関の1つである林野庁の調査によると、平成29年度の森林面積被害は日本全国で約6000ヘクタールに上り、実際にスギやヒノキなどを扱う林業への経済的被害や地面に生える草木の減少、そしてそれに伴った生態系バランスの崩壊が発生しています。平成27年度の全国の森林被害のうち、なんと約3分の2がシカによる被害で、シカ以外にはノネズミ、クマ、カモシカ、イノシシ、ウサギ、サルによる森林被害も報告されています。

これら森林被害の主な原因はシカの急増です。

近年、シカの生息数急増とそれに伴った生息地域の拡大は深刻で、国内のシカの生息地域は年々拡大しており、ここ約30年でその面積は2.5倍も拡大したとも言われています。

シカは性成熟が早い上に繁殖力が大変強く、生後1年で繁殖するメスの個体は約半分、2歳以上のメスジカでは80パーセント以上、3歳以上のメスジカになるとほぼ毎年出産するようになります。このシカの繁殖力に任せてしまうと個体数は1年で約20パーセント、4〜5年経つと2倍にまで増えてしまうのです。

こうして個体数を増やしたシカは、さらなる餌を求めて行動範囲を拡大し、生息地拡大に繋がるのです。

一見、外来生物でもないシカの増加や生息地拡大は、日本の広い森林には影響が少ないように感じますが、シカの餌になる植物は大変幅広く、森林を構成する木々の表皮を剥いで食べたり角で削ったり、若い木の芽を食べたり踏みつけたりすることで木の成長が阻害されたり、森林の生態系バランスや林業の経営までに大きな被害を与えてしまうのです。

森林被害・食害のうち、シカと同じような植栽林への食害を行うものにカモシカやノウサギ、ノネズミがいます。これらの動物は、被害を受けた植栽木の切断面でいずれの動物であるか特定が可能です。

食害対策1:害獣の捕獲と個体数調

森林被害および食害において最も効果的な対策に、被害の大多数を占めるシカの捕獲と個体数調整があります。

先述した通りシカの生息数は年々増え続けているため、できるだけ早い段階で早いペースの捕獲を続けなければいけません。しかし現実には、年々増え続けるシカとは反対に、狩猟免許保持者の減少や高齢化から狩猟者が全国的に不足しています。

2005年以降、狩猟免許保持者の半数以上が60歳以上の高齢者であるという状況が続いており、平成27年現在の狩猟免許保持者は約19万人となっています。ただしこの数字は、あくまで免許を保持している人の人数であるため、積極的に狩猟活動を行なっている人数はこれよりもっと少ないと言えるでしょう。このような状況では、銃猟やワナ猟で1頭ずつ捕獲するだけではなく、出来るだけ少ない人手で多くのシカを捕獲する工夫が必要です。

その工夫として近年シカ捕獲に使用されているのが、調査やテクノロジーを屈指した効率的な大規模捕獲です。

もちろん1頭ずつ捕獲することも可能ですが、先述したシカの増加率や狩猟者の状況を考えるとその方法だけでシカの生息数を減少させるのは不可能で、今まさに被害を受けて困っている方や農林水産業を営農されている方など緊迫した状況の方々にとってはあまり現実的な対策ではありません。大規模捕獲の具体的な例として、囲いわなや誘引狙撃などの方法がとられることがあります。

囲いわなとは、シカが集まってくる適切な場所に檻を設置して餌でおびき寄せ、群れごとに一気に捕獲するというワナの一種です。囲いワナには、十数頭から数十頭の大量のシカ捕獲を目的とした大型囲いワナと、軽量な資材を利用して設置や組み立てが簡単な小型の囲いワナがあり、それぞれ遠隔操作システムやセンサー、カメラとの併用することによって捕獲率の向上や人的コストの削減も可能になります。工夫によっては少人数で大領捕獲できるメリットがある一方で、費用面や労力の面でデメリットもあります。

警戒心が強いシカを囲いわなで捕獲するためには、複数頭のシカが入っても壊れないような強度のある素材が必要なためワナの購入や設置に費用がかかるのはもちろん、捕獲実施前に囲いワナに慣れさせるための時間や囲いワナ設置の労力がかかるのです。

ただし、4〜5年で倍増してしまうシカの生息数を前に、複数頭のシカを一度に捕獲できる囲いワナは必要不可欠な方法だと言えるでしょう。囲いわなの予算は大小や素材に応じて5万円〜60万円ほどです。

もう一方の誘引狙撃はシャープシューティングとも呼ばれ、狩猟をする前提で一時的に野生のシカに餌付けをし、シカが集まったところを銃器などで捕獲する方法もあります。これは経験とスキルと兼ね備えたベテラン狩猟者がなせる方法であるため、誰でもできる方法ではありませんが、銃猟でシカの捕獲を行う際は最も効果的な方法だと言えるでしょう。

誘引狙撃の具体的な方法は、まず安全かつシカが生息する場所のうち、狩猟に適切な場所を設定します。その後約2週間同じ場所で餌を与え続けてシカの警戒心を解きながら猟場におびき寄せます。林道の交通規制や地域への広報などの安全対策を行った上で、おびき寄せられたシカを物陰や車上から狩猟するのです。これらの場所設定には、シカの生息密度が高い地域や季節による群れの移動、シカの行動パターンなどを把握する必要がありますが、事前の準備と安全対策を行うことで通常の狩猟より高い効果が期待できます。

事前調査や道具の調達、規模に応じた予算など個人で対応しきれない場合もあるため、個人で行う対策と言うよりは多大な被害を受けている市町村や地域全体の取り組みで使用されることが多いです。

実際に大規模捕獲は全国各地で行われており、群馬県では県と市が協力して大型の囲いワナを設置し、北海道では冬の50日間で行われた大型囲いワナの設置で288頭ものエゾシカ誘引に成功しています。都道府県や地方自治体によってはシカ被害対策への補助金を出していたり、対策費用の一部を負担する制度を設けていたりする場合もあるため、自治体の担当者に一度相談してみると良いでしょう。

食害対策2:木の保護

森林被害および食害において効果的なもう1つの対策に、木を保護する方法があります。先ほどご紹介したシカの捕獲や個体数調整は、狩猟者免許および狩猟者登録が必要なだけでなく、それに伴う専門知識や専門道具、長期的な群れの調査が必要な場合が多いため、私有地や林業で発生する食害への対策としては規模が大きすぎて実現不可能な場合もあるでしょう。ここでは、一本一本の木を保護する資材や侵入防止柵の設置、忌避剤散布など、より身近に行える対策についてご紹介します。

まずは木を守る保護材についてです。

保護材は、それぞれ単一の木を保護する(単木処理)際に使用され、木に直接ネットや金網、トタン、テープ、チューブを巻きつけることで、シカやウサギ、ネズミ類の食害を物理的に遮ることが出来ます。保護する木の本数や敷地面積が広いほど手間がかかる方法ではありますが、木に直接カバーするため食害防止効果が高く、使用する資材によって比較的費用も安く抑えられることから、手軽に導入できる方法です。特に苗木の場合は、食害防止効果だけでなく、台風や強風から守ってくれたり温室効果で成長促進が期待できたりとその他の効果も期待でき、苗木保護専用の製品も販売されています。

ただし、それぞれの木を保護する場合は、木自体は守られても下層植生の保護はできないため、すでにシカの生息密度が高い地域や裸地化が進んでいる地域ではより広範囲を保護する侵入防止柵の設置を検討した方が良い場合もあります。

次は侵入防止柵の設置についてです。

侵入防止柵とは、苗木を植えたばかりのエリアなど被害を避けたい特定の場所をエリアごと柵で囲み、害獣となる野生動物の侵入を防ぐものです。シカの食害以外に、イノシシの掘り起こしやクマによる樹皮剥ぎも同時に防ぐことができ、合わせて下層植生を守ることもできる大変効果の高い方法です。

一方で、強度と兼ね備えた柵の設置にはそれなりの初期費用がかかるのはもちろんのこと、効果を維持するためには定期的な見回りやメンテナンスも必要です。自治体によっては補助金を出してくれる場合もありますので、予算面で行き詰まった場合には、資材費用を支援してくれる制度はないか、補助金支給の制度がないかを地方自治体の担当者に確認してみましょう。

柵の設置が難しい場合は、柵の代わりに強度のあるネットを使用してエリアを囲むという方法もあります。

最後に忌避剤についてです。

忌避剤とは野生動物が嫌がる臭いや味をした薬剤のことで、これを木に直接散布することで食害を減少させる方法です。忌避剤の性質や木の状態に応じて、噴霧器で散布したり手で刷り込んだりしますが、先述した保護剤や柵の準備に比べると専門道具や設備が必要ないため、最も手軽な対策だと言えます。

ここでは三重県の林業県報で行われたある調査結果をご紹介します。この調査は、忌避剤散布とシカの食害被害に関する調査で、異なる3箇所の調査地で、ジラム水和剤(商品名:コニファー)とイソプロチオラン水和剤(商品名:ツリーセーブ、現在は廃番)をスギとヒノキの地上30cmの高さまで散布し、約250日の経過を追ったものです。

結果として、両方の忌避剤において、少なくとも8カ月にわたるスギとヒノキのシカ食害を軽減できることが確認されました。

シカはヒノキよりもスギを好むため、スギへの忌避剤散布により高い効果が見られ、ヒノキではわずかに食害にあった木があったものの剥皮面積はかなり小さく、忌避剤散布が被害範囲の減少に役立っていると言えます。ただし、忌避剤散布から8ヶ月を過ぎた頃には薬剤のほとんど剥がれ落ちている様子が確認されたため、継続的な効果のためには定期的な散布や被害が増加する季節に合わせた散布が必要であることが分かります。

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