獣害対策として柵の使用を検討している方に向けて、金属柵とワイヤーメッシュ柵の違い、期待できる効果、柵の管理、使用上の注意点などをご紹介します。
金属柵とワイヤーメッシュ柵の違い
金属柵とワイヤーメッシュ柵はどちらも金属を使用した侵入防止柵であるため、ネット柵や電気柵などの柵と比べて、混合して理解してしまいがちです。用途が田畑や集落への侵入防止であるという点や金属製であるという点は同じですが、柵に利用している素材が何を目的としているか?が大きく異なります。
金属柵は公園や空き地、駐車場などにあるフェンスのようなもので、人や動物が侵入しないことを目的として作られたものです。
侵入防止が第一目的で作られた柵であるため、かなり強度があり、塗装材や設置環境によっては10年以上使用できます。設置のための費用や工事は大掛かりですが、その分強度があるため、一度作ってしまえば維持管理の手間が少ない点が特徴です。この特徴を生かして、頻繁に足を運ぶことが難しい山の中や集落全体を囲む大規模柵の設置に使用されることが多いです。
一方、ワイヤーメッシュ柵は「ワイヤーメッシュ」という建設資材を獣害対策に利用している柵です。
ワイヤーメッシュとは本来コンクリートのひび割れ防止や強度補強として用いられているもので、その強度と利便性から獣害対策に利用されることとなった、いわば簡易版金属柵のようなものなのです。ワイヤーメッシュ柵は金属柵に比べて予算を抑えて手軽に設置できるため、個人で設置することも可能です。
柵の管理について
金属柵とワイヤーメッシュ柵は、電気柵やネット柵などに比べて強度があります。特に金属柵の場合は管理の手間が少ないと先述しましたが、全く管理する必要がないわけではありません。
金属柵もワイヤーメッシュ柵も設置したその日から動物がめっきり来なくなるということはなく、故障点検や周辺環境の整備、定期的な見回りをする必要があります。これを怠ってしまうと、柵の傷んだ部分に気付けずに、劣化か進んで余分な修繕費用が掛かってしまったり、動物が侵入した隙間に気付けずに「柵を設置したのに被害が減らない」と新たな悩みの種を生んでしまったりする結果となります。柵設置の検討の際には、初期費用となる設置費用の金額だけでなく、設置した後の管理にどれだけの予算と手間が必要なのか?も把握しておきましょう。
金属柵やワイヤーメッシュ柵の管理として必要なことは、周辺環境の整備、定期的な見回り、柵のメンテナンスの3点です。
周辺の環境整備については、柵の外部数メートルの下草の刈り払いや柵に絡まったツルやツタの除去などがあり、主に柵へのダメージを減らすために行います。
柵を設置する場所は、人の手があまり行き届いていない場所もしくは人の出入りが少ない場所であることが多いため、野生動物が近づきやすい環境になってしまいます。特にイノシシの場合は草木の間や茂みなどの環境を好むため、柵のすぐ近くまで草木が生い茂っていたり柵にツルやツタが絡まっていたりすると、本来は近寄ってほしくない柵の付近が、動物にとって隠れやすく落ち着ける環境になってしまうのです。周辺環境に合わせて年に2〜4回ほど、柵に絡んだツルやツタの処理、下草の刈り払い(特に春先や夏)、落葉樹の落葉の除去(秋)を行いましょう。
次に、定期的な見回りについては柵に異常がないか?を確認することです。柵の設置環境によっては、台風や風で土砂が溜まったり木が倒れて柵にもたれかかったりすることもありますし、柵の下の土を掘られたような跡や押されて傾いてしまった跡があることもあります。
これらはすぐに被害を及ぼさなくても、放っておくと柵の劣化やほつれ、破壊の原因となり、頭の良い動物であればその隙間を狙って柵内に侵入してくる可能性もあります。柵の効果を維持するためにも、定期的な見回りの予定をあらかじめ組んでおき、異常・故障を発見したらできるだけ早く柵のメンテナンスを行いましょう。
複合的な対策の必要性
今回の記事では金属柵およびワイヤーメッシュ柵について紹介をしましたが、獣害対策の方法は柵以外にも多種多様です。
経験がある方でも被害状況をパッと見ただけで最善の対策を判断することは難しいほど、獣害問題は様々な要因が絡んで発生していることを常に頭に入れておきましょう。そのため、強度があるからといって柵を設置すれば全てが良くなるわけでなく、あくまで対策の1つとして柔軟に考えることが重要なのです。
実際に、柵の設置を検討するために専門家に相談したところ、聞き取りから周辺の生態調査も行うこととなり、結果的に「加害個体を特定してその個体を捕獲する」という対策をすることで、柵を設置せずとも被害が激減したという例もあります。この場合、もちろん柵の設置も有効な対策でしたが、予算や設置の手間を考えると専門家に相談して「総合的に状況を判断してもらう」という選択をしてみるのも良いでしょう。
その他に、自治体の担当者に相談することも有効な手段で、自治体によっては柵の設置や延長に補助金が出ている場合や柵の強化に支援制度が設置されている場合もあります。鳥獣被害対策実施隊を設置している市町村では、実施隊員の活動支援や予算補助も行なっているので、市町村を通して実施隊の方々に対策を依頼するという方法もあります。自分一人ではなく他の方と協力して行うことで、狩猟免許が必要な対策を選択肢に入れることもできます。