山林地域で獣害対策として設置されるグレーチングについて、その用途と効果、予算などをご紹介します。
グレーチングとは
グレーチングとは、道路の側溝や公園の水飲み場などで使われている排水設備の一種で、銅板性のものやステンレス製のものなどがあります。本来はスムーズな排水のために利用されるものですが、近年これを獣害対策に使用する取り組みが行われています。
グレーチングが獣害対策として利用できる理由は、動物の足にあります。イノシシやシカは偶蹄目(ぐうていもく)にグループ化される哺乳類の一種で、偶数の蹄(ひづめ)を持つ動物です。偶蹄目にはイノシシやシカの他にも、ウシ、ヒツジ、キリン、ラクダ、カバなどが分類されます。
これに対して奇蹄目(きていもく)に分類される動物もおり、ウマやサイ、バクなどがこの奇蹄目にあたります。これら蹄の数がなぜグレーチングに関係あるのかというと、このように足の先だけを地面に接地させて歩く動物にとって、グレーチングの網目は大変歩きにくい構造をしているということです。
近年では獣害対策専用に網目を改良したグレーチングも登場しており、その効果が期待されています。
グレーチングの効果と注意点
グレーチングの最も魅力的な効果は、動物の通行は防ぎながらも、人や車などは問題なく通過できるという点です。
農地や集落への侵入防止は、現在まで柵やネットの設置、光や音による追い払い、忌避剤の散布など様々な方法で行われてきました。しかし柵やネットの設置に関しては、比較的限られた面積の田畑を囲むことは容易であっても、大きな集落を囲む場合や広範囲にわたる柵設置の場合は人や車が通過するための道路を完全に防ぐことができないというデメリットがありました。
グレーチングの獣害対策活用は、このデメリットを補填できる対策として大変注目されているのです。グレーチングの設置のためには道路のアスファルトを剥いだり農道を掘ったりして、その溝をU字状のコンクリートで埋め、その上部にグレーチングを設置する形となります。
獣害対策用のグレーチングでは、側溝のような幅の狭さではシカやイノシシに飛び越えられてしまうため、飛び越えられないほどの幅をとる必要があります。そのため、設置には小型〜中型の重機が必要なのですが、柵と併用することで侵入防止の大きな効果が期待できます。
実際に滋賀県では、農業委員会が市と共同で林道に獣害対策用のグレーチングを設置するという実証実験を行っています。
この地域では10数年ほど前から農地への獣害が目立つようになり、現在まで様々な策を講じてきました。害獣となるイノシシは付近の山から降りてきて被害を与えていることが分かり、山の周りに柵を設置しました。その山は他の山とは連なっていなかったため、山を全体的に囲うことである程度の被害は抑制できたのですが、山に入るための林道はツーリングやドライブ、登山などで人や車の通行があるため柵の設置ができず、被害が防げずにいました。
そこで、関係者の協議を経てその林道に獣害対策専用として開発されたグレーチングを設置することになったのです。
この事例のように、国道や林道など人の生活にとって大切な道路を完全に塞ぐことのできない場合、グレーチングは大きな効果を発揮します。道路工事や道路の一時的封鎖などの壁もあるため、個人で出来る対策ではありませんが、都道府県や市町村、農業組合などと協力することで広範囲に渡って野生動物の侵入を防止する効果があります。
グレーチングの設置と予算
先述したように、グレーチングの設置は大きな効果が期待できる反面、道路工事や道路の一時封鎖など個人では対応できない大きな課題が残ります。
私有地であれば個人で設置が可能な場合がありますが、グレーチングによる侵入防止効果は被害状況や害獣の生息状況、侵入経路によってはかなり広い範囲での効果が期待できます。
グレーチングを設置するためにまず必要となるのは、生態調査です。センサーカメラの設置や痕跡の調査、被害状況などから農作物に被害を与えている害獣の生息地や移動経路などを把握し、どの道路にグレーチングを設置すれば良いか?を見極めます。こうすることで自ずと、柵の設置のみで対策できる被害なのか?道路工事や道路の知事封鎖をしてまでもグレーチングを設置する必要があるのか?が明確になってきます。
獣害問題は相手が知恵を持った生き物であるため、一筋縄ではいかない対策や柔軟な対応が求められる対策が多くあり、それらの対策は継続して徹底的に行うことを求められます。もしも対策を徹底する上で、林道や山道が抜け目になっているのであれば、このグレーチングは大きな効果を期待するでしょう。設置のための予算は道路状況や工事の機材によって様々ですが、十数万円〜数百万円です。